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なぜ漆が重宝されるのか、半永久的に受け継がれる漆器の魅力

日本4大漆器編、お疲れ様でした!今までは有名な漆器の種類についてご説明させていただきましたので、ここからは少し立ち返り、漆製品を買う事・使う事の魅力やメリットをご紹介したいと思います!

漆とは何と言っても、その目に映る美しさが一番の魅力ですよね。紀州漆器のような一般的に漆器製品として知られるような美しい蒔絵が施された漆器や、浄法寺漆のような単色で飾らないシンプルな漆器、八雲塗は半透明で琥珀色の漆を用いるなど、様々な視覚的快楽を私たちに与えてくれるのが漆器です。

また、漆の良さは私たちと共に日々の生活でさらに美しくなるという事です。ガラス製品や陶器は完成品された美しさを維持する製品ですが、漆器は使い込むほど艶や味が出るもので、完成品でももちろん美しいのですが「育てる喜び」を味わえるのは漆ならではの持ち味であると思います。

ですが漆製品は感覚だけを満たしてくれるわけではありません。では、そんな漆製品の実用的なメリットはどのような部分でしょうか?冷静に分析してみましょう!

と、ココで少し復習です。漆器の素地(土台)はなんだったでしょうか!・・・正解は、木材でしたね!そうです漆器は木地挽きから始まる木製製品なので漆器には木のぬくもりがそのまま残るのです。なので、温かい料理が温かいうちに召し上がることができるのです!

ガラス製品と比べても木の熱伝導率はガラスの1/6以下なので、数字で見てもガラス製品の食器を使うより漆製品を使う方が、熱が逃げにくいことがわかりますね!そして漆はその熱を逃がさないためにも、熱に強く丈夫であるというメリットもあります。

「丈夫である」というのは漆器の強みで、中でも「輪島塗」の漆器は特に丈夫さを売りにしていることをご紹介いたしました。実は漆は自然界でとれる塗料の中で最強クラスの丈夫さだと言われています。その漆を下塗・中塗・上塗と幾重にも塗り重ね、削りだし磨くことで、より強固な器になるのです。

その頑丈さは落とした程度じゃ割れることがなく、95℃程度の熱にも耐えるほどです。漆は繊細で扱いが難しいと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、扱いを間違えないようにすればよいだけなので、安心してお使いください!

このようなメリットを持っていますが、ここで一つ注意していただきたいのは、天然の漆を用いた製品でなく合成樹脂製品をご利用なさる時は、上記したメリットの恩恵がすべて受けられるとは限らないという事です。

この大量生産の時代、漆器も職人が手作りしたものと合成樹脂の比較的安価な製品が存在いたします。もちろん合成樹脂製品が悪であるとは言いません。合成樹脂製品は気温変化や乾燥に強いため、長期間そのまま冷蔵庫に入れておくことが可能であり、食洗機にかけられるなどのメリットは存在します。

ですが耐久性や耐熱性、木のぬくもりや麗しさは木製の製品ならではの特権ですので、私は可能な限り、手をかけてあげることで長い間使い続けることのできる木製製品を購入することをオススメいたします。

ここで豆知識ですが、実は天然漆製品と合成樹脂製品には見分け方があります。その方法は水に入れて浮かぶかどうか、です。木製はもちろん浮かびますし、合成樹脂製品はそのまま水に沈んでしまいます。商品ラベルだけでは見極められないことも多くあるので、ぜひご購入の際は試してみてください!

このように漆のメリットは多岐に渡ります。正直な話、たくさんありすぎで書き切れていない部分も多いので、また他の記事でその都度、豆知識という形で追記させていただきますね。漆製品の購入を検討される際は、ぜひこのメリットを思い出して下さい!

さらに奥深い漆器の世界、数えれど語れる量の漆器の流派

さて今回も日本に存在する流派のご紹介です。実は本当に漆の流派は数多く存在し、日本4大漆器に絞ってご紹介したものの、もう少し紹介させていただきたい思いもあり、日本4大漆器番外編として枠を取らせていただきました。

番外編で紹介させていただく漆器は5種類です。その5種類は「浄法寺漆」「琉球漆器」「津軽漆器」「八雲漆器」「飛騨春慶」となっております。それぞれ短くまとめさせていただいたので、さっそく見ていきましょう!

「浄法寺漆(じょうぼうじうるし)」・・・岩手県二戸市が産地の漆器でございます。始まりの時期が定かでないのですが、728年に、中央から派遣された僧侶が日常生活の為の器を作るために漆の技術が伝えられたことから始まるといわれています。

その特徴は、単色で無地の黒漆、もしくは朱漆で作られた非常にシンプルな漆器であることがほとんどです。シンプルなだけに飽きが来ず、また最高級の漆を直接味わえる奥深い漆器です。

「琉球漆器(りゅうきゅうしっき)」・・・その名の通り、沖縄県に伝わる工芸品です。沖縄には琉球ガラスや琉球畳などたくさんの産業が存在しますが、琉球漆器も1986年には経済産業大臣指定伝統工芸品として認められたほど、格のある工芸品です。

琉球漆器と言えば何と言っても「堆錦(ついきん)」です!これは「螺鈿」や「沈金」といったような加飾方法であり、中国からヒントを得た琉球漆器独自の加飾方法と言えます。ほかの漆器には中々見られない壮大な龍の加飾はみどころです!

「津軽漆器(つがるしっき)」・・・津軽弁でも有名ですね、津軽漆器は青森県発祥の漆器です。実は青森県で唯一の経済産業大臣指定伝統工芸品となるので、非常に大切にされているのだとか。

「研ぎ出し変わり塗」という耳馴染みのない技法は津軽漆器ならでは。幾重にも塗り重ねた漆を研ぎ出してはまた塗る、というのを数十回繰り返したのちに表れる複雑かつ美しい漆模様は見る者を引き付ける美しさです!

「八雲塗(やくもぬり)」・・・八雲塗とは、島根県松江市で作られる漆器のことです。職を失ったかご塗職人一家が、職を失ったことをきっかけに中国の存星塗(ぞんぜいぬり)をまねて作った盆の趣を買われ、「八雲塗」として成長しました。

私のお気に入りの八雲塗漆器は「八雲白檀 琥珀」という漆器です。木地に張り重ねた金箔の上から、半透明の木地呂漆(きじろうるし)で塗り上げたものです。使用するにつれ、木地呂漆の琥珀色と、下に敷き詰めた金箔が程よい色合いになり、非常に美しい漆器になります。ぜひ八雲塗漆器にワインを注ぎたいですね。

「飛騨春慶(ひだしゅんけい)」・・・飛騨春慶は岐阜県の飛騨高山地方で制作される漆製品です。軽くて木目が美しく、アクセサリーやカードケースなどお土産として向いている漆器製品です。

また、飛騨春慶には漆製品に使い方を求めないというコンセプトがあります。漆製品というと、少し固いイメージをもたれてしまうことがありますが、そのようなことは無く、あえてルールを設けないと明言することで、漆の可能性を伸ばしている。そんな漆製品です!

今回は5種類の漆を紹介させていただきました。ほかにも紹介したい漆器の流派はたくさんあるのですが、自分で漆器を調べる楽しみもあると思うので、番外編もこの辺でお開きにしましょう。

しかし漆というものはとても目に優しい美しさですよね。そんな漆には美しさしか魅力がないのでしょうか・・・。もちろん、そんなことありませんよね!次回はあらためて漆の魅力を振り返ってみましょう!

伝統を崇敬、されど技術は事新しく、発展を惜しまぬ『会津漆器』

ついに日本4大漆器、最後の流派の紹介になりました。和歌山県、石川県、福井県様々な地域を漆器と共に見てまいりましたが、次に私たちが訪れる漆器の産地は、福島県です!そして今回ご紹介する漆器の名前は「会津漆器(あいづしっき)」です!

会津と聞いて思い浮かべるのは、観光名所でもある会津若松市ですよね!会津若松市のシンボルでもある、国指定史跡・若松城跡の鶴ヶ城天守閣は戊辰戦争で1ヶ月にも及ぶ攻防に耐えきった名城であることから、お城好きの方には必見のスポットですよね!

さて、そんなたくさんの魅力がある会津の地に発祥した「会津漆器」ですが、1590年の安土桃山時代に豊臣秀吉の命を受け、武将蒲生氏郷(がもう うじさと)公が奨励したことから産業として本格的に発展をし始めます。

以降、保科正之(ほしな まさゆき)などの歴代会津藩主が技術革新や産業の振興に尽力したことで、江戸時代には中国・オランダなどに輸出され、ますます活気づいております。

しかし、のちの戊辰戦争により会津は大打撃を受け、同時に会津漆器も壊滅的な被害を受けることになりました。戊辰戦争で甚大な被害を受けた会津は、自分たちが築きあげてきた会津漆器と共に復興していく決意を固め、新しい一歩を踏み出すことにしました。

その甲斐あって、明治時代の中期になるころには以前よりはるかに隆盛し、日本有数の漆器の産地として邁進するようになりました。400年守り続けた伝統の技と兼ねて、常に最新技術を取り入れることで、今日では日本4大漆器に数えられるまでになったのです。

会津漆器は愛のある会津の職人と共に生きたからこそ、人間と同じく、挫折から立ち上がることができましたし、その経験による恩恵でさらにすばらしい漆器へと進化していったのですね。

そんな会津漆器の特徴ですが、先ほども申しました通り、常にその時代の最新の技術を取り入れていたことから、多彩な技法を保有していることが会津漆器の最大の特徴であると考えます。

松竹梅に破魔矢・糸車を施した伝統的な絵柄である「会津塗」をはじめ、上塗り後の研磨をあえて行わないことから、より堅牢な漆器へと導く「花塗」黒漆で塗りを施した器に均一になるよう模様を描き、その上から朱色の粉を振り分け完全に乾く前に磨き上げる「朱磨」など様々な技法で私たちを楽しませてくれますね。

そして、漆職人にはつきものである後継者問題に真剣に取り組んでいる姿も垣間見ることができます。会津漆器には「会津漆器技術後継者訓練学校」というものがあります。募集は毎年4名ほどで、「蒔絵専攻」と「塗専攻」が交互で募集されます。

定員は非常にわずかですが、その分現役漆職人であるプロからしっかり教わることができる上、さまざまな支援体制により、現在活躍している会津漆器の中堅職人はほとんどこの「会津漆技術後継者訓練学校」を経ているほど重要な役割を担っています。

職人になるというのは、私たちが想像している以上にはるかに大変で障害の大きい道ですが、このような支援体制ができることで、少しでも未来の職人さんの道が明るく照らされると良いですね。

さて、短いように感じますが、これで会津漆器のご紹介も終わりでございます。今まで日本4大漆器についてさまざまなお話をしてまいりましたが、いかがでしょうか?お気に入りの漆の流派は見つけられたでしょうか?

お気に入りの漆器を見つけて地元で購入するもよし、実際に発祥の地に訪れる楽しみにしてもよし。その時に、この日本4大漆器の記事を参考にしていただけたのならば、幸いです!以上、日本4大漆器編でした。

遡ること1500年。皇子の御眼鏡に適う明媚の器『越前漆器』

日本4大漆器編もいよいよ3つ目になってまいりました、タイトルにある「1500年」や「皇子」というワードが気になるところですが、先に今回ご紹介させていただきたい日本4大漆器の名前をお伝えします・・・それは「越前漆器」でございます。

越前漆器の起源は、約1500年前の古墳時代にまで遡るといわれております。第26代天皇である、継体天皇がまだ皇子であったころに、片山集落(現在の福井県鯖江市です)の塗師に壊れた冠の修理をさせたことから始まりました。

片山集落の塗師が冠を、漆を用いて修理するだけでなく、同じく漆で加飾した椀を献上したのですが、その出来栄えに皇子がとても感銘を受け、片山集落で今後も漆産業を続けるよう勧めたことで、今日の「越前漆器」に至ります。

なので、タイトルの「1500年」や「皇子」というのは、越前漆器の始まりである歴史から来ているのでした。継体天皇は古事記によると没年齢40歳と記されており、現在で換算すると80歳の長寿であったと言われています。もしかして、美しいものを愛でると寿命が延びるのでしょうか。

越前漆器と言えば「片山椀(かたやまわん)」が有名です。明治時代までは、この「片山椀」のみしか漆器の製造をしなかったほど、越前漆器を語る上で重要な漆器となります。とは言っても、以前は「片山椀=越前漆器」というイメージであったことから、椀に特徴があるというよりは、あくまで代表的な意味合いに思えます。

この「片山椀」、実は明治時代を境に転機を迎えることになります。というのも明治時代に初めて、それまでは片山椀のような丸物(まるもの)の漆器しか作っていなかったのですが、これを境に重箱、手箱、菓子箱のような角物(かどもの)の漆器も作るようになったのです。

今まで変えてこなかった信念を曲げることは、漆職人だけでなく私たちにさえ、どれだけ大変なことであるかは想像できますよね。それでもこの先へ進むべく、越前漆器は変化を受け入れたのです!

以後、生産地も片山地区からさらに広がり河和田地区にまでおよび、特に河和田地区で作られる漆器のことを「河和田塗り(かわだぬり)」と呼ぶようになりました。今では「河田塗り=越前漆器」のように時代は移り変わっております。

現代の越前漆器は、鯖江市にある「うるしの里会館」で御覧に入れることができます。日本4大漆器を紹介するにあたって、もし興味を持っていただけたのならば訪れてほしいという意味で各流派の会館を紹介していますが、おそらく越前漆器を紹介している「うるしの里会館」が最も充実した内容をしている会館であると思われます。

展示見学、ミュージアムショップなどの一般的な施設展開に加え、越前漆器の伝統工芸士の仕事が間近で見られる「職人工房」が展開されています。ここでは漆器を作る工程である、木地制作・塗り・加飾の一連の流れを見ることができます!

これは消費者目線だけでなく、将来職人を目指す方にとって、刺激になること間違いなしです!また、ワークショップとして蒔絵体験・沈金体験・拭き漆体験ができます!漆器の制作体験では、蒔絵がほとんどですが、「うるしの里会館」では珍しい沈金体験や、拭き漆まで体験できるのは、とても魅力的ですね!

以上、越前漆器の紹介でした。私は鯖江市に行ったことがないのですが、うるしの里会館に行って、お祭りに際に用いられる「地域の宝」とまでいわれた「越前塗山車」は一度見てみたいと思っております!

さて、これで3つの漆器の紹介が終わりました。次はいよいよ日本4大漆器最後の流派のご紹介になります、日本4大漆器の締めくくりとまいりましょう!

近代漆器の先駆者、生産額は日本一を誇り、誰もが存じる『山中漆器』

続きましては、日本4大漆器の中でも、生産額全国1位である「山中漆器」のご紹介です!「山中漆器」は安土桃山時代に石川県加賀市の山中温泉地区に、木地職人の集団が移住し、温泉の土産として振る舞ったことから広まったと言われています。

加えて江戸時代中ごろから、会津・京都・金沢から塗りや蒔絵の技術を輸入することで、木地だけでなく、茶道具としての漆器の制作が発展していきました。

以前、漆は分業制であるという話をしましたね。木地師・塗師・蒔絵師などそれぞれの工程で専門家が存在しました。「山中漆器」で栄えている石川県では「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」というように、県内の各地域でそれぞれに特化した専門家達が点在しており、県全体で強力な漆器の産地を成しています。

その中でも、「山中漆器」の起源からも分かる通り、「山中漆器」では木地師が多く、特に轆轤挽物木地(ろくろひきものきじ)の分野では、職人の質・技術共に日本の頂点に君臨しています。それに、能登半島の美しい山々と自然の恵みを見渡せば、それだけでない理由にも頷けますね。

その木地技術は無形文化財「山中木地挽物」として認められています。人間国宝も数多く存在するのは、生産規模・職人規模が日本一と認められるには十分な要件ですね。

そして山中漆器は保有する自然の恵みだけでなく、更なる革新のため、プラスチック製の漆器にいち早く取り組んだ、というのも山中漆器の特徴です。近代漆器にいち早く取り組んだ結果、日本一と言われる生産額を樹立することに成功したのです。

そんな山中漆器で、さらに注目したいのは木地だけでなく「輪島塗」です!漆器は最近では、美しく目で楽しむ「造形美」のように扱われることがありますが、本来は生活で用いる「機能美」であるべきなのです。

輪島塗は「丈夫さ」に重きを置いた塗り方です。下塗りに用いる地の粉(じのこ)は自然豊かで、プランクトンの死骸を含んだ豊富な輪島の珪藻土を用いています。顕微鏡で確認することのできる無数の小さな穴に漆が染み込むことで、堅牢な器へ進化していきます。

このように輪島塗は、昔ながらの製法で「造形美」だけでなくしっかりと漆本来の持ち味をさらに助長する「機能美」を尊重している見事な漆器なのです!ちなみに、輪島では漆を塗る専門家のことを「塗師屋(ぬしや)」という特有の呼び方があります。「塗りの輪島」ならではですね!

加賀市には山中漆器が一堂に揃うという謳い文句で「山中漆器伝統産業会館」がございます。紀州漆器のときと同じく、漆器の資料や販売、展示を行っている施設です。ですが、山中漆器だけでなく「輪島塗会館」がございます。

訪れることで、一番漆器を体で感じることのできるのは石川県かもしれません。もし本格的な山中漆器を感じたくなったのならば、加賀市や輪島市には一度足を運んでみてください!「山中漆器祭」「JAPAN漆YAMANAKA」「漆器感謝祭」など、漆にちなんだイベントが盛りだくさんで、訪れた人を満足させること間違いなしです!

以上が山中漆器の紹介でございます。いかがだったでしょうか?石川県では地域で専門家による分業がなされており、かつそれぞれの地域は非常に有力な漆器を生産していますね!一度訪れると町の一丸となっている雰囲気が味わえる気がしてきます!

さて、紀州漆器は雅な根来塗が美しかったですね。山中漆器は轆轤による木地挽物が非常に強力な持ち味でした。では次に紹介する日本4大漆器はどのような持ち味が楽しめるのでしょうか、さっそく舌鼓です。

朱漆の下に風情あり、「用の美」を掲げる確かな風格『紀州漆器』

さて、漆器ができるまでを学んだあとは、日本4大漆器について学んでいきましょう!漆器の流派は様々です。青森県には津軽漆器、沖縄県には琉球漆器、東京都にも江戸漆器という漆器がございます。

他にも奈良県、神奈川県、島根県などなど・・・数多くの都道府県に流派が存在します。それだけ日本にはたくさんの漆器の流派が存在しますが、その中でもとりわけ強みを持っており、日本の漆器界を代表するのが日本4大漆器なのです!

今回紹介する「紀州漆器」は和歌山県を代表する漆器の流派です。中でも和歌山県海南市の北西部にある「黒江地区」を中心に広がる流派で、その始まりは室町時代であるといわれています。

紀州漆器には「根来塗(ねごろぬり)」という最大の特徴がございます。これは、紀州漆器の起源の一つである那賀郡岩出町の根来寺で、僧侶たちが自分たちの手で、寺で使用する椀や盆などを作る際に作った塗物から名付けられた塗り方です。

下地に黒漆を用いて、その上に朱色の漆をあしらったもので、「日本4大漆器の中で朱色の漆器」と言われたら紀州漆器であると推察できるほど印象に残る上塗りです。

古い漆器ではこの上塗りの朱色の漆器が摩耗してはがれてくると下地の漆黒が顔をだし、模様のごとく露出します。この現象は、未熟練の僧侶が下地作りや下塗りをした際に、上手く木地を平らに出来ず、凹凸を残したままで朱漆を塗ったせいで、使用を重ねるうち自然に朱漆がはがれてしまったことから起こったものです。

本来は失敗作の意味合いが非常に濃く、本人たちには恥ずべきことだったのですが、このデザインに却って趣を見出し、今ではわざと使い込んだように初めから朱漆の剥げた漆器を制作するほど人気があります。

このように朱漆が特徴の「根来塗」ですが、この朱漆をあえて塗らずに黒漆のままで完成品にするものは「黒根来(くろねごろ)」と呼ばれ、茶道具として好まれて用いられることがあります。紀州漆器は朱漆という概念があることで多様な趣が見出せる漆器なのですね!

そんな紀州漆器の産地である海南市には「うるわし館」というものがあり、ここでは漆器の販売・展示・資料などさまざまな紀州漆器についての情報が詰め込まれている、そんな会館があります。

私がお気に入りの展示品の一つに、青年部が毎年作成している「ジャンボ漆器」というものがあるのですが、ロードバイクに漆器を施したり、原動機付自転車に美しい朱漆を施したりと、非常にユニークかつ魅力的な漆を見ることができます。

また海南市では、今以上に紀州漆器について多くの方に知ってもらおうと、常に努力を惜しまずに漆器について発信しております。2016年も11月に第28回になる「紀州漆器まつり」が開催されました。

このお祭りでは紀州漆器の見学、購入ができる大漆器市が開かれるほか、地元の学生による吹奏楽ステージや、伝統芸能の披露など、紀州漆器だけでなく街全体としての魅力が詰まったお祭りなので非常に足を運びたくなりますね!

加えて、蒔絵体験も実施しています。団体様だけでなく個人様からも受け付けており、お盆とお弁当箱から蒔絵体験を選ぶことができます。出来上がった作品は当日中にお持ち帰りいただけるので、旅の思い出にもなりますね。

画像を載せることができなく残念ですが、紀州漆器の色鮮やかな漆器の数々、紀州漆祭りの風景は紀州漆器公式ホームページに掲載されているので、ぜひご覧ください!

このように漆器を盛り上げようと尽力している地域はたくさんあります。残り3つある4大漆器の産地ではどのように盛り上げているのか気になりますよね!さっそく次の産地にも顔を出してみましょう!

将に美しさを振りまき器に彩りを加える、器の花形『蒔絵』

ついに漆器を作る3工程のうち、最後の工程であり、漆器の花形「加飾」のご紹介でございます。加飾には大きく分けて「沈金(ちんきん)」と「蒔絵(まきえ)」の2種類があります。それぞれ加飾の手法が異なるものなので、順番に見ていきましょう。

まず「沈金」についての説明です。これはどのように加飾するかと申しますと、上塗り(もしくは呂色まで)が終わった器に「沈金ノミ」というノミで漆器に模様を彫っていきます。これは小学校のころに図画工作で行った彫刻刀の作業のようですね。

次に掘った場所に、改めて漆をひいていきます。掘るだけでなく、漆を流し込む必要があるのですね!実はその理由として、漆が接着剤の効果を持つことにあります。つまり接着効果のある漆を模様の箇所に流し込むことで、その後に入れる「金箔」を器に接着することができるのです!

こうすることで、器を布で磨いたときに金箔がしっかりと器に残り、美しい模様を表現することができるようになります。この工程を見た先人達は漆黒の漆に輝く金箔が沈んでいるように見えるという事から、この技術を「沈金」と名付けたそうです!

私には彫刻刀の授業は難しかった記憶があります。ですが沈金により描かれた模様は、掘っているとはいえ漆を流し込み、磨くことで決して凹凸ができるわけでは無く、掘って作ったようには見えないほど繊細で、筆で描かれていたと間違うほど緻密に見えるものなのです。

現在では金箔や金粉といった金色の配色だけでなく様々な色のついた粉が用いられることから、視覚にも楽しく、表現の奥深さが更に広がっていますね!

そして表現の奥深さならもう一方の「蒔絵」も忘れてはいけませんよね。ここからは「蒔絵」のお話をさせていただきたいと思います。

蒔絵は沈金とは違い、掘ることはしません。上塗り、呂色が済んだ器の上から漆で模様を描き、それが乾く前に金粉や銀粉を蒔き付ける加飾方法です。蒔絵は普通の絵のように器に描く手法なのですね。

この記事をお読みの方に絵を描く方はいらっしゃいますでしょうか?絵を描く方はたくさんいるだけに、様々な手法や自己流の描き方が存在します。それと同じで蒔絵にもたくさんの種類の技法がございます。

その中でもっとも基本的な技法である「平蒔絵(ひらまきえ)」をご紹介したいと思います。「平蒔絵」には「消し蒔絵(けしまきえ)」「磨き蒔絵(みがきまきえ)」がございます。

「消し蒔絵」では、できる限り薄く描いた漆の模様に「消し金粉」と呼ばれる金箔の中で最もと言えるほど非常に細かくした金箔を粉筒、もしくは綿で塗りつけていきます。蒔いた場所がはっきりとわかるので、非常に繊細かつ緻密な作業が要求されます。

「磨き蒔絵」では「消し金粉」より荒い粒の金箔を用いります。その他の工程は「消し蒔絵」とあまり変わりませんが、「磨き蒔絵」では金箔を蒔いた後でさらに磨き作業をすることで「消し蒔絵」よりさらに光沢のある蒔絵になります。

インターネットなどで一見してもわかりづらいので、機会がある方は是非お店で手に取ってその違いを感じていただくことをオススメいたします!

以上が漆器制作における花形、「沈金」と「蒔絵」のご紹介でした!この工程は絵を描くことに似ているので、語るのが非常に難しい分野ですが、それだけに実際の製品では奥深く魅力的なものがたくさんあるので、ぜひ蒔絵が施された漆器をたくさん見ていただきたいです!

さて、これで漆器の成り立ちがわかっていただけたでしょうか?次からは、そんな制作工程でも特にこだわりを持ち、有名になった漆器の流派についてお話しさせていただきたいと思います!

それは塗り重ねるほど深くなる、漆器の『塗り』の世界

今回ご紹介するのは前項目でご紹介した漆器制作の3工程のうち下地塗から上塗までの「塗り」の段階です。下地塗から加飾までを含めた、漆を塗ることを総称して「きゅう漆(しつ)」と呼ぶこともあります。

漆の塗りには大きく分けて3工程あると申し上げましたが、「塗」と名の付く段階は「下地塗・中塗・上塗」の3工程あるので、より厳密には「木地挽き・下地塗・中塗・上塗・加飾」の5工程が漆器制作の手順になります。

中でも下地塗の段階は非常に大切です。なぜなら、この段階がしっかりできているかどうかでその後の工程の出来が左右されるほか、漆の良さである美しさや、耐久性にも影響が出てくるからです。

なので、下地塗の段階は、まず挽きが終わった段階の器に傷や不完全な接着がないかの確認から始まります。もし傷を見つけたら、刻苧漆(こくそうるし)というものを塗りこんで滑らかにしてあげます。その後木地の補強をする「木地固め」を行い、それを慣らしてからやっと「下地漆」を塗ることができます。

この「下地漆」には「本堅地(ほんかたじ)・錆地(さびじ)・渋下地(しぶしたじ)」の3つほど種類があり、それぞれ使う材料やその工程にかかる時間が違う事から、値段や性能が分かれるポイントでもあります。

本堅地は生漆に土の粉(じのこ)を混ぜたものを器に塗り、乾いたら整形し再び塗り、乾いたら整形して再び塗る・・・という作業を繰り返すことで漆器を丈夫にしていく下地の作業です。もっとも手が込んでおり、本物の本堅地が施された器は高価なものになります。

錆地も生漆に土の粉を混ぜて、下地に使う漆を作ります。本堅地に似ていますが、生漆に混ぜる土の粉は「じのこ」ではなく「とのこ」と呼ばれるものを混ぜ、「錆漆(さびうるし)」というものを作り上げます。本堅地より簡素な塗り方であり、本堅地の最終段階で用いられることもあります。

最後の渋下地は、今までとは違い「柿渋汁(かきしぶじる)」というものを塗り、じのこの代わりに炭粉を用いた下地を使います。ちなみにこの柿渋、テレビ番組の鉄腕DASHでTOKIOのメンバー達が自主制作していることで有名になりましたよね!本堅地より安価で仕上げることができます。

実際に漆製品を手に取る機会が訪れたときに、値段の違いの一つの参考、また職人さんとお話しする機会があれば下地のことを伺うことも、漆器の世界に深く入り込める要素です!

そして下地の上に塗るのが「中塗漆」でございます。この「中塗」作業では中塗刷毛という刷毛を使い、下地をさらに強固なものにしていきます。この際、適度な湿度を保ってくれる特別な部屋で乾かします。中塗りは基本的に1度で済むものですが、器によっては2度塗りするものもあるそうです。

最後の上塗りは、製品として一番外側の漆黒の部分の塗りになります。そのまま購入者の目に届く部分なので、チリやほこりひとつ入り込まぬように丁寧に塗り上げる必要があります。ちなみにこの時にも使われる刷毛は、なんと人間の髪の毛が使われた刷毛なのです。

まさに漆は人間の手で作る、もとい人間の髪の毛で作るわけなのです。人間の髪の毛は漆と相性がよく、また漆器はそれを利用する人に良く馴染むというのは、なかなか面白いですね。

以上、漆の塗りの説明でした。意外にも皆さんがよく目にする上塗り段階より下地のお話が濃くなってしまいましたね。ですがそれだけ塗りにおいて下地が大事であり、漆を深く知るうえでとても大切なことなのです!

今回紹介した「塗り」の作業では、どちらかというと地味で堅実な土台の漆黒のお話でした、では次は漆塗りの花形、「蒔絵」で器を彩りましょう。

「漆」器と言えど土台が大切。『木地挽き』の職人技

ここからはさっそく漆器についてお話していきたいと思います。漆器と言えば完成品のあの美しい器を思い浮かべますが、その美しい器はどのようにして出来上がるのでしょうか?実は漆器の制作工程はかなり奥深いものになっています。

漆器の制作には大きく分けて3工程ございます「木地挽き・塗り・加飾」の3つです。それぞれ分業制が取られており、「木地師(きじし)・塗師(ぬりし)・蒔絵師(まきえし)」という呼び方をされます。では今回ご紹介する木地挽きで、木地師はどのような作業をするのでしょうか。

木地師が何をする人かというと、木材の塊をお椀の形にする人です!その方法は木工用の轆轤(ろくろ)を用いて自分のイメージする器の形にしていくのですが、この作業を「挽く」といい、この「挽く」ことで出来たまだ塗装をしていない木製の器を「挽物」といいます。何となく「木地挽き」という工程のイメージができたでしょうか?

そしてこの作業、もちろん洗練された非常に繊細な技術が必要な作業になります。作りたい形を出すためにカンナや小刀などの刃物類、予定通りの削りができているかを確認するための型板など30種類以上もの道具を組み合わせて一つの挽物を完成させるのです。

実は、挽物専用の刃物はそれだけ種類があるのにも関わらず、市販されていないのです。すべて職人が自らの手で金属を熱し、金槌で叩き上げて作るのです。この作業をしているのが木を扱う漆職人なのが何ともミスマッチな気もしますが、木地師職人はそれほどスキルが要求される仕事なのです。

ですが、必要になるスキルはここからが本番なのです。実際に木材を削る作業ですが、これも非常に難しい作業なのです。同じ器の形を作りたいからと言ってすべて同じ道具を使い、同じ削り方をすればいいわけではありません。木材一つ一つ、固さや繊維方向から木理(細胞の並び方)まですべて違うのです。

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木地職人は高速で回転する轆轤を前に、木の性質を一瞬で見抜いて素早く正確に木を削り、同じ形に整形していかなくてはならないのです。まさに職人技ですね!

木地の種類は大きく分けて2種類あります。お盆やお重など、見た目に角ばっている板を組み合わせた木地のことを「角物(かくもの)」、お椀やお盆など、見た目が丸くなっている形状のものを「丸物(まるもの)」と言います。

他にも薄い板を楕円の輪っか上にしてお弁当箱などの形にする「曲物(まげもの)」厚い板を彫刻刀やノミで掘り進めていき、鉢やお盆を作る「刳物(くりもの)」があります。特に刳物では、木の固まりの状態から轆轤を用いることなく手作業で掘り進めていくので、複雑な円形、模様を表現することができます。

この木地挽きを特に得意とするのが日本4大漆器である「山中漆器」です!木地の生産規模が日本一番広いとも言われています。今回木地挽きの紹介にあたり、私も山中漆器の文献を参考にさせていただいたところが多くあります。

そしてご察しのことかもしれませんが、先ほど申し上げました通り漆器の制作は何工程にもわかれていることから、「木地師・塗師・蒔絵師」のように、それぞれの作業が分業されています。それぞれの作業を何人もの職人の専門的な技術が兼ね合わさっているので、出来上がった器にも深みが生まれるのですね。

また、日本4大漆器については後述させていただきます。盛りだくさんの内容なので、お気に入りの漆器の流派が見つかるといいですね!ではその前に、次の工程である「塗り」の段階についてお話していきましょう。

初めにちゃんと復習しておこう!漆とはそもそもどういうものなのか

まずは漆というものはどういうものか復習していきましょう!漆と言えば英語でjapanと表記されることもあるそうですね!これは江戸時代に漆製品が日本のおもな貿易品であったことから、漆や工芸品を総称してjapanと呼んでいたことから来ているそうです。だからと言って、海外で漆=japanが通用するかと言えば難しいそうですが・・・。

漆はもともとウルシノキから採取できる樹液なのです!採取する際はウルシノキの表面を剥ぎ落す「皮剥ぎ鎌」、ウルシノキに掻き傷をつける「掻き鎌」でウルシノキに日を空けて何度か傷をつけ、数滴ずつ採取するそうです。(ちなみに「皮剥ぎ鎌」と「掻き鎌」は使用される地方によって呼び方が変わるそうです。)

このような手の込んだ作業を経てもウルシノキ1本からは200㏄ほどの漆しか採取できず、ウルシノキから漆が採取できるようになるまでに10年ほど木を育てなければいけないので、それだけでどれだけ貴重なものか計り知れますね。

そしてそのウルシノキから採れた貴重な漆を加工したものが天然樹脂塗料である漆になるのです。加工前のいわゆる生の漆を見る機会はあまりないと思いますが、見た目は茶色のペンキに似ているものです。

しかしペンキと漆は似ているようで実は大きな違いがあります。それは固まり方です。一般的にペンキを乾かすときには風に当てて乾燥した場所に曝すことで乾燥させますよね。ペンキを塗布する時にも換気が必要ですし、乾かすために「乾燥している」ことが重要なのがペンキです。

一方、漆を乾かす方法はというと「化学反応」なのです!そしてそれには適度な室温(約24~28度)と湿度(約70~85%)が重要になってきます、つまり「湿っている」ことが大切なのですね。漆が乾くには漆の主成分であるウルシオールと酸化酵素(ラッカーゼ)の反応が必要になります。

ラッカーゼが空中の水分から酸素を取り込むことでウルシオールの粘度が高くなり、酸化重合します!(ペンキで言う乾燥状態になります)そして、乾くための酸化重合をするためにある程度の温度が必要になるのです!じめじめしたあったかい場所が何かを乾かすなんて、不思議ですね。

この乾かし方の違いから、漆はペンキのようにすぐ乾く、というわけにはいきません。早くても触れるくらい乾燥するまで10時間、お味噌汁椀のように熱いものを入れる容器になるまでには1ヶ月は放っておく必要があるのです!

少し難しい話になってしまいましたが、簡単にまとめると「ペンキは乾燥した風あたりの良い場所で乾く」「漆はあったかくてジメジメした場所で乾く」という、何とも正反対の乾き方をするのです!これだけで既にとてもおもしろい知識だと思いませんか?漆についての興味の入り口になってくだされば幸いです!

ちなみに漆は高価なもので素人には購入できないとお考えの方もいらっしゃると思いますが、実はチューブ単位で購入することができます。高いものから安いものまでさまざまな漆が存在しますが、そのお値段は50gあたり1,000円~5,000円ほどで販売されています。

ここで注意していただきたいことは、チューブの漆は生漆ですので、かぶれるということです!かぶれにくい生漆も販売していますが、十分な心得がない段階で手を出すことは危ないかと思われます。値段がどうこうというよりかぶれを心配して生の漆には安易に手を出さない方が良いですね。

では我々が手を出しづらい漆を使った漆器を、職人さんはどのように作っているのでしょうか?次からの項目では、漆器ができるまでの工程をご紹介いたします!

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