それは塗り重ねるほど深くなる、漆器の『塗り』の世界

今回ご紹介するのは前項目でご紹介した漆器制作の3工程のうち下地塗から上塗までの「塗り」の段階です。下地塗から加飾までを含めた、漆を塗ることを総称して「きゅう漆(しつ)」と呼ぶこともあります。

漆の塗りには大きく分けて3工程あると申し上げましたが、「塗」と名の付く段階は「下地塗・中塗・上塗」の3工程あるので、より厳密には「木地挽き・下地塗・中塗・上塗・加飾」の5工程が漆器制作の手順になります。

中でも下地塗の段階は非常に大切です。なぜなら、この段階がしっかりできているかどうかでその後の工程の出来が左右されるほか、漆の良さである美しさや、耐久性にも影響が出てくるからです。

なので、下地塗の段階は、まず挽きが終わった段階の器に傷や不完全な接着がないかの確認から始まります。もし傷を見つけたら、刻苧漆(こくそうるし)というものを塗りこんで滑らかにしてあげます。その後木地の補強をする「木地固め」を行い、それを慣らしてからやっと「下地漆」を塗ることができます。

この「下地漆」には「本堅地(ほんかたじ)・錆地(さびじ)・渋下地(しぶしたじ)」の3つほど種類があり、それぞれ使う材料やその工程にかかる時間が違う事から、値段や性能が分かれるポイントでもあります。

本堅地は生漆に土の粉(じのこ)を混ぜたものを器に塗り、乾いたら整形し再び塗り、乾いたら整形して再び塗る・・・という作業を繰り返すことで漆器を丈夫にしていく下地の作業です。もっとも手が込んでおり、本物の本堅地が施された器は高価なものになります。

錆地も生漆に土の粉を混ぜて、下地に使う漆を作ります。本堅地に似ていますが、生漆に混ぜる土の粉は「じのこ」ではなく「とのこ」と呼ばれるものを混ぜ、「錆漆(さびうるし)」というものを作り上げます。本堅地より簡素な塗り方であり、本堅地の最終段階で用いられることもあります。

最後の渋下地は、今までとは違い「柿渋汁(かきしぶじる)」というものを塗り、じのこの代わりに炭粉を用いた下地を使います。ちなみにこの柿渋、テレビ番組の鉄腕DASHでTOKIOのメンバー達が自主制作していることで有名になりましたよね!本堅地より安価で仕上げることができます。

実際に漆製品を手に取る機会が訪れたときに、値段の違いの一つの参考、また職人さんとお話しする機会があれば下地のことを伺うことも、漆器の世界に深く入り込める要素です!

そして下地の上に塗るのが「中塗漆」でございます。この「中塗」作業では中塗刷毛という刷毛を使い、下地をさらに強固なものにしていきます。この際、適度な湿度を保ってくれる特別な部屋で乾かします。中塗りは基本的に1度で済むものですが、器によっては2度塗りするものもあるそうです。

最後の上塗りは、製品として一番外側の漆黒の部分の塗りになります。そのまま購入者の目に届く部分なので、チリやほこりひとつ入り込まぬように丁寧に塗り上げる必要があります。ちなみにこの時にも使われる刷毛は、なんと人間の髪の毛が使われた刷毛なのです。

まさに漆は人間の手で作る、もとい人間の髪の毛で作るわけなのです。人間の髪の毛は漆と相性がよく、また漆器はそれを利用する人に良く馴染むというのは、なかなか面白いですね。

以上、漆の塗りの説明でした。意外にも皆さんがよく目にする上塗り段階より下地のお話が濃くなってしまいましたね。ですがそれだけ塗りにおいて下地が大事であり、漆を深く知るうえでとても大切なことなのです!

今回紹介した「塗り」の作業では、どちらかというと地味で堅実な土台の漆黒のお話でした、では次は漆塗りの花形、「蒔絵」で器を彩りましょう。